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〔症僚11〕
未告知で薬剤師が指道的に関わる
亀田総合病院小野沢滋
●K.K.、67歳、男性、元公務員、癌骨転移(原発巣不明)臨床経過
平成8年6月頃より、強度の腹痛を訴えるようになった。X−P,CT,MRI、シンチ上、腰、胸椎、肩甲骨、肋骨に骨溶解を認めた。骨生検にて、癌転移を認めるも、諸検査にて原発巣不明。疼痛コントロール可能となってきたため、退院となる。家族の意向により、本人には未告知であり、炎症に伴う骨変性、骨溶解が進行しているので、今後歩けないかもしれないと医師から説明を受けている。
問題点
癌告知が大きな問題となっている。未告知のためか薬の服用に対し、抵抗を示す。たとえば、病識が薄いため、できる限り痛みや吐き気を我慢すれば病気がよくなると考えている。さらに、薬が増えることは、病気が悪化していると自分で考えてしまうため、訪問薬剤師に対しても、状態を素直に伝えようとしない。それゆえ、薬の増量や種類を増やすことに関して、非常に敏感となりコンプライアンスも悪化傾向である。
また服薬指導上、フェイスペインスケールを使用したが、記入は痛みを意識させるという理由で記入を避けている。つまり几帳面な性格にもかかわらず、本人は明確な目標設定ができず、とにかくめんどうなことは逃れようとしてしまう。
考察
この問題は、癌の告知という大きな問題をはらんでいる。告知の是非はともかくとして、未告知により薬剤師の訪問薬剤指導上で戸惑ってしまった例である。本人のQOLの向上を考えた時、モルヒネ量の調節やその副作用の軽減に内服薬を増量、追加することは、当然必要となってくる処置である。残された貴重な時間を、症状緩和により有意義に過ごしてほしいとする医療者側の考えと本人の考えに隔たりが生じてしまった一例である。
今後、本人に対する病状説明の場に葉剤師が医師とともにチームとして同席することは、薬剤師の訪問活動にぜひ必要になってくるのではないか。患者の反応、家族の反応を生の情報として仕入れることは大切なことである。
カンファレンスにおける情報の共有は
武田 嘘で固めるためにチームワークをよくするという方向に、私は反対です。本当の情報を提供し合うことによって患者さんに利益がもたらされるということであれば、多少の予算は使ってもいいと国も思うのでしょうが、嘘をまるめるためにということは本来すべきことではないですし、ある意味では憲法違反なのかもしれません。チームワークというのは、本当の情報を共有し合って、それを患者さんが受け入れやすい形で皆さんが力を合わせていくというところに本来の目的があると思います。そして病棟では看護婦と医者が話し合っているかもしれない、それに薬剤師も入ったほうが便利がもしれませんが、嘘で固めていくためにはメンバーが増えれば増えるほどすぐばれる、逆効果だと思うのです。ですからそういう努力をするのだったらそのエネルギーを、患者さんに本当のことをいかに衝撃の少ない形で教えてあげるかというほうに注ぐのがいいと思いますし、皆さんも働きやすくなると思いますし、患者さんも質問しやすくなるのではないかと思います。それは大変なことなのですけれども、相対的にはいいほうに転がっていくのではないかと思います。
私の病院では主治医が重要な話を患者さんにするときには必ずプライマリナーズがアテンドしなければならない規則にしてあります。薬剤師が病棟に出ているところでは、薬剤師がアテンドできるということになっています。
それから患者さんからモルヒネ、抗癌剤のことなどで質問があったときには、カウンターでは話せませんから、脇に小さいコーナーを設けてあってそこに椅子と小さいテーブルを置いておき、そこで薬剤師が説明ができるという非常にお金のかからない設備は用意しています。
−この症例の場合には告知をしていないというのが大きな問題だと思います。奥さんには、もし本人が聞いてきた場合には本当のことを言いますとはお話しして、それは了解してもらっているのですが、本当のことを話すタイミングが非常にむずかしいのでまだ話してないという状況があります。

 

 

 

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